治療者に必要なコミュニケーションスキルとマインド ~患者さんやスタッフとの良い人間関係のために~ 講師 伊藤かよこ先生
■本を読んで腰痛が治る?
私は鍼灸師なのですが、一昨年の11月に『腰痛学校』という本を出版しました。この本を読んでくださった方はわかると思いますが、これは「腰痛を読んで治す」という内容です。
「本を読んで腰痛が・・・」と聞くと、書いた私ですら「え~っ」と思います。なぜ治るのか? 結局、何を変えているのかといいますと、実は「考え方」なんです。
「考え方を変える?」「何それ?」と思いますよね。でも、皆さんは心と体が影響し合っていることは知っていることと思います。例えば美味しい物のことを考えたりすれば、何もしていなくても唾液が出たり、お腹がグーッとなったりします。じゃ、この「考える」というのはどこでおこなっていますか?
■痛いと感じるのも、考えるのも「脳」
頭、脳ですよね。では痛いと感じているのは? これも脳、いっしょなんです。
私たちには先入観というものがありますから、考えただけで痛みが治ったりするはずはない、普通はそう思うんです。でもここで冷静に考えてみてください。
痛いと感じるのは「脳」ですよね。本を読んで理解するのも「脳」。であれば「本を読んで腰痛が治る」というのも、そうおかしな話ではないと思いませんか? 最近は科学的にもそのようなことが言われているんです。
■心と体って別々?
そもそも、なぜ私は鍼灸師なのにこのような活動をしているのか? 元々心理学が好きだったんですね。大学生の頃から心理学を勉強して「心と体は影響しあっている」「なら、心から体を治せるじゃないか」。そう思って勉強を続けてきました。
たいてい心と体は分けて考えると思います。私は「心から」でしたが、この業界(整体)の方は「体から」治そうとする方が多いと思います。でも、そもそも心と体ははっきりと分けられるものではないんですよ。
「脳は心、体、どっち?」と聞かれたらどう答えますか。物質的には体なんですよね。でも痛みを感じるというのは脳の神経が「興奮すること」。体の「変化」なんです。心ですか体ですか、と分ける発想自体がもう古いといいますか・・・。時代は変化しているんです。
■やれば出来る、「慣れ」です!
心からアプローチするけど、同時に体にもよい影響を与えている。そのようなことが治療の中でできたらいいなと思っています。その具体的方法がコミュニケーションなのです。患者さんに「言葉」や「態度」で伝わるものがあります。今日はこのテーマで勉強します。
コミュニケーションスキルを実際に練習します。どんどんワークもやります。「ワークはちょっと苦手だな」と思う方はいらっしゃいますか? 苦手な方は、もしかしたら「他の人は楽しくワークやっているのに自分は・・・」と思うかもしれませんね。
私は今、人前に立ってこんな風に話をしていますが、「人前で話すなんて苦手・・・」、そう思っている方もおられることでしょう。違うんです。得意そうに見えますけど、皆、はじめは苦手なんです。実はわたしもそう。でも、やればできるんです。「慣れ」ですよね。
■まずは好感を持たれること
コミュニケーションには深め方というのがありまして、最初はやっぱり「好感を持たれる」というのが大事。例えば、同じ治療技術を持ったA先生とB先生がいたとします。「なんとなく好きだわ~」と思うA先生と、「なんとなく合わないわな~」というB先生に治療されたら、効果は一緒だと思いますか? 「違うだろうな~」というのは皆さんもなんとなくわかりますよね。
それはそうですよね。嫌いな人に触られるとなればちょっと引きますもんね。好きな人であれば「ふぁ~っ」と嬉しいし。だから、この
「好感を持たれる」というのは治療者にとってはとても大事なことなんです。練習するとある程度は出来るようになります。
■第一印象をよくするワーク
好感を持たれるために大切なこととして第一印象があります。皆さん、ここで軽く目を閉じて想像してみてください。
皆さんは今、治療院にいます。受付や入り口付近にいます。ドアが「シャーッ」と開きました。はじめて初診の患者さんと目が合いました。その時に、どんな態度、姿勢、表情で、何と声をかけていることが多いですか?
毎回違うかもしれませんけど、ちょっとイメージしてみてください。はい、ありがとうございます。早速皆さんがどんな感じでやられているのか、ワークをやってみたいと思います。
■人は見た目が9割?
『人は見た目が9割』(竹内一郎著)という本があります。確かに第一印象は大事。表情はどんな感じがいいと思いますか? 笑いすぎてはいけないけど、ムスッともしていない方がいいですよね。
服装は? 仕事なのでだいたい決まっていると思いますが、大事な点はなんだと思いますか? そうです、清潔感です。髪型もです。髪型はあまり変わっていない方がいいかなと(笑)。
姿勢は? 今ワークを見ていたら、お互い恥ずかしいのもあってちょっと背中が丸い感じになっていた人が多かったです。姿勢は少し堂々としている方がいいですよね。ここで初診の患者さんに必要なのは安心感ですから。
■安心感を与える挨拶
それから目線。これは皆さんきちんと相手を見て挨拶しておられました。挨拶する時は、パタパタと何かをしながらするのは落ち着かない感じがします。相手の目を見て「こんにちは」って言ってから軽く礼をされるのがいいと思います。これらを一個一個止めておこなう感じでやると、相手に安心感を与えます。
このような練習はちょっと恥ずかしいかもしれませんが、治療院でスタッフがいる方は、たまにお互いにおこなうといいですね。「その笑顔爽やかだね」「いいね!」と。
一人で経営している先生は今日のような勉強会に来た時に他の先生と組んでやってみてください。それから声。これも皆さんまあまあ出来ていました。暗いよりは明るい方がいいと思います。
■割と相手には伝わってしまう
「好感を持たれるコミュニケーション」というのは、まとめますと「第一印象が大事」「挨拶は止まってする」「話を聞く時は集中して」です。
この中でついやりがちなのは、話を聞きながら他の事を考えちゃうこと。「次の患者さんは○○時だな~」「あ~、あそこ掃除してない」とか(笑)。これって割と相手に伝わっちゃうんです。「あれ、この先生、話聞いてくれているけどなんか距離があるな」と。
このような印象は患者さんに好感を持ってもらえるかどうかにも関係します。それを伝えたくて先ほどのワークで「話は聞いているけど、心は別なことを考えて」をやってもらったんです。
■傾聴は必ず身につけたいスキル
これらが出来ると「この先生、まあまあ安心できるな」となるでしょう。その次の段階は、コミュニケーションをより深めていくことです。
方法として傾聴という話の聞き方があります。ひたすら人の話を聞くんです。皆さんは職業柄、私もそうなんですが(笑)、ついついしゃべりすぎます。傾聴というのは練習しないと出来ないんですよ。
理由として、私たちはそういう訓練を受けていないということがまず一つ。それから、実際の治療現場は忙しいので「ずっと聞いていられない」ということもありますね。聞いていると際限ないこともありますから。
その辺の対応は後ほどお伝えするとして、まずは「ふ~ん」「そうか~」とあいづちや合いの手を打ちながら相手の話をずっと聞けるかどうかです。傾聴は治療者が必ず身につけた方がよいスキルです。
■聞いてもらうと心が落ち着く
傾聴では自分の意見や考えも述べません。例えば患者さんが腰痛ですごく痛く辛い時、先生から「自分も腰痛で・・・」と言われたらどう感じますか? それを嬉しく思う場合もあるでしょうけど、深刻な話をしている時にそう言われて、中には「え? そんな・・・。こっちの方がもっと深刻だよ」と思われてしまう場合だってあり得ます。
「あ~、一緒です」「わかります、わかります」というのは日常会話では使うと思いますが、傾聴では使わないんです。質問もせずただひたすら聞く。するとどうなるか? 「とても心が落ち着く」んですね。皆さんにもこの落ち着くということを体験してもらいたくワークをやります。では傾聴をやってみましょう。
■参加された皆様の感想
- 本日はありがとうございました。「ワーク」と「講義」のバランスがとてもよかったです。またお願いします。
- 今日はありがとうございます。勉強になりました。
- 聞く事は大切。でも出来ていない自分。今日から前進だ。
- 初めて伊藤先生に会ってお話させていただきましたが、オーラや包み込む雰囲気、伝える能力もすごいなぁと感心させられました。良好な人間関係を築いていきます。ありがとうございました!
- 大変勉強になりました。実生活で応用してみようと思います。
- ワークも豊富で楽しく参加できわかりやすかったです。今後とも楽しみにしています。
- 是非とも又セミナーをお願いします。色々なアプローチ法を知りたいです。
- 今日をずっと楽しみにしていました。とてもわかりやすくて、すぐに実践できる内容で、参加できてよかったです。今の自分がどんなコミュニケーションをしているのか実感できました。まずベビーステップとして、『一旦止まる』を始めます。ひとつひとつ丁寧に、自分自身と相手に向き合えそうです。ありがとうございました。
- コミュニケーションという事にチェックする必要がたくさんあり、それをワークで皆で考えるというスタイルはとても面白かったです。又、心理学のデモはとても興味深く、とても面白く、もっと勉強してみたいと思いました。
- 今まで気にしていたつもりでもうまくできてなかったことが再確認できました。施術の時だけでなく常にコミュニケーションを意識して練習をつみかさねることが大事だと思った。まずは妻とのコミュニケーションで練習します。大変ためになりました。ありがとうございました!